●『現代悪党仁義』
  解説・佐藤利明(娯楽映画研究家)

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【痛快!犯罪アクション・コメディ】



 日活映画黄金時代、ミステリー、サスペンス、コメディ、アクションなど多彩な娯楽映画で常にセンセーショナルな作品を連打していたアルチザン・中平康監督。昭和39(1964)年のエロティックな三部作『猟人日記』『砂の上の植物群』『女の渦と淵の流れ』から一転、宍戸錠の痛快アクション・コメディ『現代悪党仁義』(1965年2月3日)に取り組んだ。
 昭和35(1960)年、日活は石原裕次郎、小林旭、赤木圭一郎、和田浩治らアクションスターによる「ダイヤモンドライン」を結成。宍戸錠も昭和36(1961)年に参加することになった。この年1月、石原裕次郎がスキー事故で骨折、8ヶ月の長期療養を余儀なくされ、2月には赤木圭一郎が急逝。そこで急遽、宍戸錠がダイヤモンドライン入りしたという説があるが、実は前年末には決まっていた。ダイヤモンドラインに加わった宍戸錠が主演したアクション・コメディ『ろくでなし稼業』(1961年3月12日・斎藤武市)で、エースの錠の相棒役を演じたのが二谷英明。ここで、二谷が「ダンプガイ」のニックネームでダイヤモンドライン入りを果たす。
 その二谷と宍戸錠は、『用心棒稼業』(1961年4月23日・舛田利雄)などでコンビを組むが、二谷もアクション映画の主役が続き、昭和39(1964)年8月14日封切りの『海賊船 海の虎』(井田探)以来のコンビ作となったのが、この『現代悪党仁義』だった。当時の日活宣伝部が作成したプレスにも「ろくでなしコンビ 宍戸・二谷」と二人の共演を強調している。
 『現代悪党仁義』での宍戸錠は「詐欺師ならぬ詐話師」。冒頭に「これは総べて本当にあった詐話師の物語である。登場人物も実在している。そして原作者は大阪府警の現職の警部さんである。詐話師と詐欺師は、どう違うか? 詐欺師は人を泣かせて金をふんだくるが、笑って金を吐き出させる。それが詐話師なのである」とスーパーが出る。
 舞台は大阪、宍戸錠にとっては幼き日を過ごした街である。登場人物たちのほとんどが関西弁、井上昭文だけは名古屋弁で「やっとかめ」を連発するが。昭和40年の大阪道頓堀、淀競馬場、法善寺横丁、岸和田、阪急庄内駅界隈など、大阪でロケーション。
 昭和30年代から40年代にかけて、「詐欺師」をテーマにした『天才詐欺師物語 狸の花道』(1964年・東宝・山本嘉次郎)などの「狸シリーズ」が連作されていた。「詐話師」を題材にした森繁久彌主演『猫と鰹節 ある詐話師の物語』(1961年・東宝・堀川弘通)が作られている。経済優先の高度成長時代、映画界で人気ジャンルとなっていた。
 中平康と宍戸錠といえば、アクション・コメディの快作『危いことなら銭になる』(1962年)でコンビを組んでいる。こちらは偽札作りの名人・左卜全をめぐって、さまざまな欲望が渦巻く、軽快なアクションだった。
 また、中平には大阪を舞台に、長門裕之扮する「当たり屋」たちのエネルギッシュな生き様をパワフルに描いた『当りや大将』(1962年)という佳作がある。全編を大阪ロケーションで撮影した「大阪映画」としても貴重な時代の記録となっている。
 『現代悪党仁義』は、この『危いことなら銭になる』のコミック・アクションと『当りや大将』の世界をシャッフルして、宍戸錠と二谷英明の丁々発止の出し抜き合いを、ハイテンション、ハイテンポで描いた犯罪コメディである。
 原作「えげつない奴」を執筆した佐川恒彦は、当時大阪府警の警部出身で、前述の森繁久彌の『猫と鰹節 ある詐話師の物語』の原作者でもある。佐川恒彦は大阪発の刑事ドラマ「部長刑事」(A B C)で、昭和34(1959)年から昭和38(1963)年にかけてシナリオを執筆していた。ここでも劇中に登場する「あの手この手」は、実際の詐話師グループの手口を、映画的に興味深く見せてくれる。
 例えば冒頭、寿司屋の親父(藤村有弘)が、白神善六(宍戸錠)たちの口車に乗って、有り金を叩いてしまう博打「握りがっぱ」。その騙しのテクニックを観客に説明した上で、座敷でのイカサマ勝負となる。ここで善六たちのチームが紹介される。出目金(井上昭文)、爆弾(天坊準)、赤パッチ天(武藤章生)、カマキリ(中台祥浩)、トンボ(榎木兵衛)、小狸(近江大介)、ハンニャ(桂小かん)たち。一癖も二癖もある連中を日活映画ではお馴染みのバイプレイヤーが、嬉々として演じている。
 フランク・シナトラ一家の犯罪コメディ『オーシャンと11人の仲間』(1960年)などと同様、個性派たちがスコープ画面いっぱいに、個性を発揮しているのが楽しい。それが関西弁と相まって、画面にエネルギッシュな味わいをもたらしてくれる。
 しかも白神善六は、トップシーンで逮捕され、加古川刑務所で5年の刑期を過ごす。ここでも新たな仲間、パクリ屋の車新八(土方弘)、窃盗犯・トビ健(杉山俊夫)たちとの出会いがある。善六は、刑期を終える前に、同房の殺人犯・コロシ(峰三平)から、貸金80万円の取立てをして被害者の墓を建てて欲しいと頼まれる。峰三平は日活バイプレイヤーであると同時に、数々の日活アクションで「技斗」を担当していた。
 頼まれたらイヤとはいえない善六は、根っからの悪人ではなく、宍戸錠がいつも演じているヒーローだけどアウトローのキャラクター。憎めないイイ男なのである。加古川城から刑務所の仲間に叫ぶ善六。そこに現れた謎の女・緑さとり(稲野和子)。前年の中平康のエロティック三部作で、体当たり的な演技を見せてくれた文学座の稲野和子が、ここではフランスの犯罪映画で「ファム・ファタール=犯罪的美女」と呼ばれるパートを担当している。
 コロシから借金をした男を探しに善六が淀競馬場に行く。そこで情報源であるコーチ屋・才助(桂小金治)と出会う。松竹から日活に移籍してきた桂小金治は、コミカルな味で、老舗の職人から、スケベな会社の重役まで、縦横無尽のバイプレイヤーぶりを発揮。石原裕次郎や小林旭のアクション映画やコメディを引き立てた。ここでも並み居る日活俳優陣の中でも一際印象的なキャラクターを演じている。
 その才助が、善六たちを連れて行ったのは、汚いビルの三階にある金貸し「大神商事」。問題の男は、その社長・大場死四郎(二谷英明)だった。この死四郎はとんだ食わせ者で、ここから映画は、宍戸錠と二谷英明の強烈な個性のぶつかり合い。二人の出し抜き合いが展開される。そのあの手この手は、百聞は一見にしかず。とにかく、二人のエネルギッシュな演技は、『用心棒稼業』以来となる久しぶりの楽しさ。
 ここで「詐話師」グループと、大場率いる「詐欺師」グループの対立の構図がはっきりする。若井基成の脚本は、宍戸錠サイドと、二谷英明サイドの描き分けや、どんな目にあっても懲りない善六の愛すべきキャラクター。死四郎の食わせ者の性格、やり口を明確に描き分けて、観客が味わうカタルシスを程よく散りばめている。
 中平康の演出も明確で、シークエンスごとの面白さをキープしながら、大阪のデープな風景、風俗、良い意味での混沌を適度に配しながら、クライマックスの「対決」へと持っていく。
 「詐話師」たちの腕の見せ所が、クライマックス。敵の側の情報を握っている事務員・桜満由子(山本陽子)を法善寺横丁に誘い出して、善六のチームが「映画会社のスカウト」のふりをしたポン引き、本物と自称する映画プロデューサー、女優を見出す天才的キャメラマンとそれぞれの役割を見事に果たして、落としてゆく。この連携プレーの楽しさ。セリフ、カット割、編集と、中平康らしい勢いのある演出が味わえる。
 また、特別出演として、谷村昌彦、藤村有弘、小沢昭一がポイント・リリーフとして登場。それぞれの見せ場も用意して、105分の長尺を飽きさせない。娯楽映画の楽しさに溢れている。





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