『元祖大四畳半大物語』DVD新装発売記念 前川清インタビュー

取材・文 伴ジャクソン(男の墓場プロダクション)twitter-bird-white-on-blue-150x150.png



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冴えない青年の悶々とした日々を描いた松本零士の漫画を曽根中生監督が映画化した「元祖大四畳半大物語」が、遂に待望の再DVD化。本作で主人公の隣に住むやくざ・ジュリー役を演じた前川清氏にその報告をしたところ、意外にも否定的なリアクションを返してきた。前川氏の真意は如何に!?

●公開時、映画館に足を運べば観客は2人!
前川 (DVDジャケット見本を見て)また、どうしたんですか、これ!?
DIGレーベル担当 僕、この作品が大好きなんです。
前川 ……何がですって!?(一同爆笑)
DIGレーベル担当 曽根中生監督の作品が好きなんです。こちらの作品も一度DVD化されて廃盤になっていたんですが、どうしても改めて商品化したかったんですよ。
前川 (大声で)ええっ!? だって俺、めちゃめちゃ下手くそですよ! ダメダメ!
——そんなことないですよ!
前川 映画はいかんでしょう、映画は!
——何故ですか、前川さんがメインを張られる貴重な作品じゃないですか。
前川 メインと言うか、主役はこの新人君(と、ジャケットの山口洋司を指して)だけどね。いやァ……何でやっちゃったのかな、これ。
——いきなり前川さんの後悔の言葉から始まりましたが(笑)、まず、ジュリー役としての出演の経緯からお訊きしていいですか。
前川 これは、いつ頃の作品ですか。
——80年8月公開なので、今から38年前です。公開時の前川さんの年齢は……。
前川 32歳ですね。自分で言うのも何ですが、脂がのりきった時期で、まだ前の事務所に所属している頃です。まあ多分、社長に頼まれて仕方なく出たんじゃないですかね。
——仕方なく!(笑)
前川 その前から、研ナオコちゃんの映画とか、ちょこちょこは出ていたんですけどね。
——はい、研さん主演の『にっぽん美女物語 女の中の女』(75年)、『美女放浪記』(77年)。共に渡辺祐介監督作品ですね。
前川 だけどね、その後(出演の)オファーは来ないから。(ジャケット見本をしげしげと眺めながら)篠ひろ子さんか……僕、今(夫の)伊集院静さんと仲良くなりましてね、曲の詞も書いてもらっているんですよ。お会いした時に、この映画の話もしました。
——お、どういうお話をされたんですか。
前川 「ずいぶん迷惑をかけたと思います」と‥‥「下手くそだな!」と、さぞイライラされていたんじゃないですかね、篠さんは。だから、俺はこの映画に関しては何にも楽しくない!(きっぱり) むしろDVDなんか出してほしくないんだから! 俺の気持ちとしては、「もう勘弁してよ!」なんだよ。
——ハハハハハ! 寝た子をわざわざ起こすなよ、と。
前川 そうだよ! 若い人なんかはこんな映画のこと、知らないんだから。「え、こんなのに出てたの?」なんてわざわざ知らせて、俺に恥をかかせないでくれよ(一同爆笑)。(原作・共同監督の)松本零士さんも、きっと当時「あれ?」って思ったはずですよ。
——でも、そもそも松本さんの漫画のジュリーは、前川さんをモデルにしているという話でしたよね。
前川 うん、当時の俺が歌っていたイメージを大切にされたんじゃないかと思います。でも、それには応えられなかったんじゃないですかね。
——前川さんは、ご自身にやくざのイメージを重ねられたことに関して、どんな思いがありましたか。
前川 印象も何も……現場でそんな意識なんてまるっきりないですよ。頭の中にあるセリフを言えるかどうかだけが心配で、立ち位置も何もない。役作りなんてもっての他で……そういえば、当時俺こっそり映画館に行って(本作を)観たんですよ。そうしたら、観客は2人! 「こりゃ大変なことになった、申し訳なかったなー」と思ってね……。
——うわー、それは確かに驚きますけど、前川さん一人の責任じゃないですよ。当時の日活は、どちらかというとロマンポルノのイメージの方が強かったでしょうから。
前川 確かに、エッチなイメージがあったかも。そういえば、劇場に来ていたお爺さんも、そっちを期待していた風だったものね(笑)。

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●自分のぎこちない演技にうんざりした

——では、次は撮影当時の印象に残ったエピソードなどについて……。
前川 全部捨てました(きっぱり)。苦しいことってね、時が経つと頭の中から自然に消えていってしまうんですよ(一同爆笑)。
——お気持ちはわかりますが、そうおっしゃらずに何か。
前川 うーん、最初に松本零士さんと曽根監督に挨拶したことくらいは覚えていますけど……。あ、篠さんと布団を共にする場面があったでしょう。あの時は「触れないようにしながら、自然に見えるのはどうしたらいいか」なんて悩んで、ドキドキしましたねー。
——おおっ、いい話じゃないですか。前川さんから見た、当時の篠さんの印象は。
前川 ああ、彼女は実にサバサバした人で、仕事が終わったら「お疲れ様―!」って言って車でさっと帰ってしまう感じでしたよ。
——まさにプロフェッショナルですね。
前川 あと、彼は頑張っていましたよ、主役の山口君。現場でも一生懸命だったという印象があります。
——個人的には、前川さんと山口さんが絡んだシーンで特に印象的だったのが、篠さんの大量のヌード写真を焚火で焼く場面なんですよ(と、プリントアウトしてきた場面写真を見せる)。
前川 ……ああ、焚火! あった、あった。ここはね、カンペ見ながら演じた。俺、ここは長セリフだったから、曽根監督にお願いして用意してもらったの。
——ええっ、ということはカンペを下に置いて?
前川 置き場所までは覚えてない。あの頃って、フィルムは高かったでしょう。「(スタッフがフィルムを)交換します」なんてやり取りを見ていると、何となく「失敗しちゃいけない」っていう圧力を感じるんだよね(笑)。だから、本当に申し訳ないけど、カンペを読みながら、カメラにも寄ってもらって。
——では、その後の屋台の場面なんかは……。
前川 そこでは使ってないです。カンペを使ったのは、焚火の場面だけ。
——おお、記憶が甦ってきましたね。では、他の共演者の話も。ガッツ石松さんと関根勤(出演当時は「ラビット関根」名義)さんが出ていますが、覚えていますか?
前川 あ、ガッツさんは覚えていますね。関根さん……出られていましたっけ?
——出ています。オネエキャラで、前川さんの部屋の左の突き当りの部屋に引っ越してくるんです。
前川 ええっ、それ、ちょっとだけ(の出演)でしょう?
——いえ、出演場面は結構ありますね。
前川 絡む場面があんまりなかったんじゃないかな。だから覚えていないんですよ。いや、しかし意外だなー。
——新鮮な驚きが(笑)。ガッツさんは、さすがに覚えていますよね?
前川 覚えています、ギラギラされている頃ですよねー。撮影で、ガッツさんとケンカをしたのは覚えている。
——では、松本ちえこさんは?
前川 ええっ、松本ちえこさんって、あのアイドルの? あれー? 本当に!?
——はい、もう結構です(笑)。でも、こういう話をしていると、段々映画が観たくなってきたんじゃないですか。
前川 いや、それはない(きっぱり)。自分は油の切れたロボットの様な、ぎこちない演技をやって辛いなー、とずっと思っていましたから。
——とまあ、自己採点激辛の前川さんですけれど、曽根中生監督はそう思われていない様ですよ。自伝によると、曽根監督はこう発言されているわけです。

この映画、私の映画の中でいちばん面白いんじゃないかと思うんです。というのも、あの前川清っていうのは渥美清にも匹敵すると思うんですよね。だから、あの役を寅さん級に仕立て上げてこの映画で寅さんみたいにやっていったら、かなり面白い連続ものができたと思いました。
(「曽根中生自伝 人は名のみの罪の深さよ」文遊社より)

前川 違いますよー! とんでもない! それはありがたいですけど……曽根さんの独り合点だと思いますね。


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